大腿骨頸部骨折患者の骨格筋量について

整形外科

大腿骨頸部骨折患者の骨格筋量について考えてみます。

大腿骨頸部骨折患者にとって骨格筋量が重要な理由

大腿骨頸部骨折の最多の受傷原因は転倒です。
また、転倒の要因は加齢や骨格筋量の低下などが関連していると報告されています。
骨格筋量の低下は骨粗鬆症とも関連しており、転倒時の骨折リスクを増加させると言えます。
つまり、大腿骨頸部骨折患者は再転倒・骨折の予防のため、身体機能を高めるとともに骨格筋量増加させることが重要と言えます。

入院時には、既に骨格筋量は低下している?!

日本で、大腿骨頸部骨折患者における興味深い研究が報告されています。

股関節骨折直後の患者357名 VS 股関節骨折を伴わない外来患者2511名で検証
骨格筋量骨密度を調査した研究です。

結果、股関節骨折を受傷した患者は入院した時点で・・・
          有意に骨格筋量が少なく、骨密度が低いことがわかったのです。


つまり、筋量が少なく骨密度が低い、という2点は骨折の危険因子になっているということが言えるでしょう。

大腿骨頸部骨折患者は・・・
受傷前から骨格筋量が低下している
骨格筋量/骨密度の低下は転倒、または骨折リスクの増加につながる

Tetsuro Hida,Naoki Ishiguro.High prevalence of sarcopenia and reduced leg muscle mass in Japanese patients immediately after a hip fracture.Geriatr Gerontol Int 2013 13(2):413-20.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22816427/

膝伸展筋力の非対称性は身体機能に強く影響を及ぼす

日本の地域在住高齢者の歩行能力に、″膝伸展力の非対称性”を含む下肢の筋力・筋量が及ぼす影響について検討した研究です。

研究対象者は65-89歳の女性30名でした。
膝伸展力の非対称性は年齢とともに増加することがわかりました。
また、6MDや10m障害物歩行時間などの歩行能力は、膝伸展力の非対称性や下肢筋力、バランス機能と関連することが示されました。

膝伸展力の非対称性は・・・
年齢とともに増加する
歩行能力やバランス能力を低下させる

HAYATO NAKAO,TAKAHIRO YOSHIKAWA.Influence of Lower-extremity Muscle Force,Muscle Mass and Asymmetery in Knee Extension Force on Gait Ability in Community-dwelling Elderly Women.J.Phys.Ther.Sci.Vol.18,No.1,2006
https://ci.nii.ac.jp/naid/10017990993

大腿骨頸部骨折後患者さんは、患側の下肢筋量が減っていく

次はスウェーデンで行われた研究です。

大腿骨頸部骨折により入院し、手術適応となった患者さんの下肢筋量・骨密度(BMD:Bone Mineral Density)を経時的に調査した研究です。
下肢筋量・BMDは骨折後3日以内、手術後3ヶ月、6ヶ月の3ポイントで測定されています。


その結果、術後6ヵ月の時点で大腿部の筋量は・・・
骨折側で9%の減少健側では12%の増加 を示していました。
BMDでは・・・
骨折側の大腿骨遠位部と脛骨近位部でそれぞれ11%と19%減少し、健側の脛骨近位部では7%減少していました 。

大腿骨頸部骨折患者は、術後6ヵ月時点で・・・
・下肢筋量は健側で増加し、骨折側は減少していた
・骨密度は両側減少していた

Gustaf Neander, Per Adolphson. Decrease in bone mineral density and muscle mass after femoral neck fracture. Acta Orthop Scand 1997; 68 (5): 451-455.
Decrease in bone mineral density and muscle mass after femoral neck fracture. A quantitative computed tomography study in 25 patients – PubMed (nih.gov)

大腿骨頸部骨折術後のリハビリのポイント

ここまで紹介した事をまとめると・・・

・大腿骨頸部骨折を受傷する人は筋量が少ない特徴を持っている
・術後のリハビリは筋力・筋量をしっかりと改善させる取り組みが重要
・筋力と筋量において健側と患側に差が生じないように練習を行うことが必要

ということです。

大腿骨頸部骨折術後の一般的なリハビリとは?

では、大腿骨頸部骨折術後のリハビリとはどのようなものなのか?
先行研究では、複数の論文で″世界的に標準化された術後のリハビリテーションはない”とされています。
そこで、大腿骨頚部骨折術後の患者さんを対象としたリハビリに関する論文を2つ紹介します。

術後クリニカルパスの効果

1つ目はカナダの病院で行われた研究です。
この研究の焦点は、術後の標準化されたリハビリテーション(クリニカルパス:CP)は、術後のBarthel Indexや転帰先をよくするのか?です。
この研究では、以下のメニューをリハビリのパスとして運用しています。

【クリニカルパス:CP】

 術後1日目 椅子に移乗する。立位にて体重移動を促す。
 術後2日目 可能な範囲での体重支持を実施(観血的整復と内固定術を受けた患者は除く)
骨折前に歩行可能であった患者には歩行訓練を行う。
体重支持に耐えられない者(non weight bearing)はFeather weight bearingを許可する。
食事とトイレのためにベッドを離れる。
 術後3日目 股関節の可動域訓練と下肢筋力強化訓練を開始。

上記のメニューを運動は午前中に理学療法室で行い、午後はベッドで運動を繰り返す。
また、歩行距離は必要最小限の介助/補助を使用して毎日伸ばします。

補足:
Feather weight bearing(FTWB)は、松葉杖や歩行器を使って患者の体重の大部分を支え、患肢の足を100Nを超えない力で地面につけることです。
【退院支援】
退院計画が固まるまで毎日話し合いを行い、通常は術後3日目まで実施する。
回復期リハビリテーションへの移行または自宅への退院は、7日目または施設にベッドの空きがあるときに行う。

【統計】
・術後3ヵ月時点でのBIスコアを従属変数として最小二乗法による回帰分析を行う
・6ヵ月時点の施設入所(有/無)を従属変数とする無条件ロジスティック回帰を用いて分析を行う

【結果】
CPの導入例では入院期間の短縮が認められましたが、BIは変わらなかったということでした。

Lauren A Beaupre,John G Cinats.Does Standardized Rehabilitation and Discharge Planning Improve Functional Recovery in Elderly Patients With Hip Fracture.Arch Phys Med Rehabil Vol 86, December 2005.

Does standardized rehabilitation and discharge planning improve functional recovery in elderly patients with hip fracture? – PubMed (nih.gov)

術後リハビリテーションに関するシステマティックレビュー

では、次に大腿骨頸部骨折術後患者に対するリハビリに関するシステマティックレビューを紹介します。
下に各論文で取り組まれていたリハビリの内容をまとめます。

  • 急性期における、理学療法作業療法の実施
  • 高頻度作業療法・理学療法(集中的なPT(1.5h/日、5日/週)とOT(1h/日、5日/週))
  • 早期モビライゼーションを実施
  • 学際的チームによる老年医学専門医によるモニタリング(退院計画とリハビリに加え、老年医学相談サービス)
  • 回復期リハビリ病棟でのリハビリ入院中の大腿四頭筋トレーニング、高強度リハビリ    etc.

これらのほとんどが、エビデンスレベル2c(推奨内容を選択しとして呈示し、患者と推奨内容を行うか相談する)です。

Anna M. Chudyk, MSc, Jeffrey W. Jutai.Systematic Review of Hip Fracture Rehabilitation Practices in the Elderly. Arch Phys Med Rehabil Vol 90, February 2009

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19236978/

術後のリハビリで、骨格筋量は改善する?

では、大腿骨頸部骨折術後の一般的なリハビリで、患者の骨格筋量は改善するのでしょうか?
これに関しては研究や報告が見つけられません。

しかし、これまでに示した研究では、術後のリハビリに関しては、離床や体重をかける練習が主でした。このような負荷では骨格筋量が増えないことが予想されます。

骨格筋量を改善させるにはどうしたらいいか?

どうすれば骨格筋量は改善させられるのでしょうか?
これは、近年注目を浴びていますが、やはり運動と栄養に関する取り組みを集中的に行うことが良いを考えられます。

しかし、大腿骨頸部骨折患者は高齢であることが多く、併存症により蛋白負荷に制限が必要であったり、運動負荷量を担保することも困難です。

このような患者さんの骨格筋量を改善させる取り組みは、今後の命題ともいえるのではないでしょうか。

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