目標
〇用語を覚える
〇スパイログラムの理解
〇換気障害の分類,重症度分類を覚える
〇臨床応用
用語
スパイログラム
スパイログラムと肺気量分画の関係は上記の図のようになります。
スパイロメーター
スパイロメーターは、大きく分けて2種類に分けられます。
気流型ではDLCOなどの拡散能は測定できません。
VC・FEV1
換気障害の分類
COPDの重症度分類
フローボリューム曲線
フローボリューム曲線のパターン
それでは、①~⑤まで順番に解説していきます。
①正常な肺
①は正常な肺でのフローボリューム曲線です。
正常な肺でのフローボリューム曲線は、最大の肺気量が5L、最高流速が10L/秒となります。そしてグラフはなだらかな曲線を描きます。
この曲線を元に、どう変化しているかにより病態を把握します。
②肺気腫
閉塞性肺疾患では、②のような下に凸のフローボリューム曲線が描かれます。閉塞性肺疾患の代表例は、喘息、COPD(肺気腫、慢性気管支炎)が上げられます。また、このグラフの波形から肺気腫とさらに限定できる理由は、②の波形は肺気量が異常に大きいからです。肺気腫では肺胞が破壊されて膨らみ肺の容量自体は大きくなります。
③肺繊維症
フローボリューム波形の形状は正常であって、肺気量、最大流速が低下するのは、拘束性肺疾患の特徴です。拘束性肺疾患とは肺胞自体の傷害により、肺のコンプライアンスが低下して肺胞が膨らみにくくなる疾患です。拘束性肺疾患の代表例としては肺繊維症が上げられます。
④末梢気道閉塞(COPD初期)
肺気腫のグラフと同様に下に凸の形状をしたグラフになっています。下に凸の波形は閉塞性肺疾患の波形です。閉塞性肺疾患は末梢気道閉塞を起こす疾患です。閉塞性肺疾患は喘息、COPD(肺気腫+慢性気管支炎)などがあります。
これらの、閉塞性肺疾患がそれほど悪化していない初期の状態や、軽傷の場合は最大速度や肺気量は変化せず下に凸の波形になるだけです。
⑤上気道閉塞
上気道閉塞とは鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭までをいいます。上気道が何らかの原因により閉塞しかかったら台形のようなグラフになります。上気道が狭窄すると特に呼気がしにくくなり呼気速度が大きく低下するためです。
フローボリューム曲線のパターン
閉塞性換気障害、拘束性換気障害、上気道狭窄などの特徴的なパターンを示す。
機能的残気量(functional residual capacity;FRC)
•機能的残気量(FRC)=予備呼気量+残気量
•機能的残気量(FRC)は安静時の呼気位に肺内に残存するガスの容積である。通常の呼吸下ではこの肺容積でガス交換が行われている。
•機能的残気量の大きさはガス交換と密接に関連しており、FRCの増大は肺が過膨張状態である事を意味し、換気効率は低下する。FRC の低下は低酸素血症につながる。
•測定法はガス希釈法と体プレチスモグラフ法の2種類がある。
DLco:Diffusing capacity of the Lung Carbon monoxide
•略語の意味としては・・・
•D=Diffusion(拡散)
•L=lung(肺)
•CO=Carbon monoxide(一酸化炭素)
•DLcoは、肺胞から肺胞の毛細血管に酸素などのガスを供給する能力。 すなわち、肺胞のガス交換能力を表します。
•%Dlco
=(測定Dlco/予測DLco)× 100
70%(or80%)以上が正常値
•Dlco’
DLco と DLco‘の違いは、肺胞気量(VA)の求め方による。
•Dlco/VA
単位肺気量あたりのDlcoのこと
•予測DLCOの式
男性:15.5 X BSA – 0.238 X Age + 6.8
女性:15.5 X BSA – 0.117 X Age +0.5 ( Burrows )
拡散能について
DLcoに影響を与える因子
DLco と DLco’について 両者の違いは肺胞気量(VA)の求め方による。
①DLco は他の方法であらかじめ求めた RV に IVC を加えて求められた VA を用いて算出した値。②DLco’は DLco 測定時の He 希釈率から求めた VA’ を用いて算出した値。
10 秒間の息こらえ時間では十分に He ガスを希釈することができないため、VA’は VA に比べて少なく測定されると考えられている。
理論的には、DLco>DLco’ となり DLco<DLco’となることはない。
DLco/VA の仕組み
息を大きく吸うと、肺胞がふくらみ、空気に接する肺胞の面積も増加します。そのため測定時に肺内に入っている空気の量(肺気量:VA)が大きくなると、拡散するco量は増え、DLco値も大きくなってしまいます。
このように生のDLco測定値は肺気量に引っ張られてしまう、ということで、単位肺気量あたりのDLcoをDLco/VAとし、正味の拡散能力を表そうとしたものです。例えば肺切除後は肺が減るのでDLcoは低下しますが、DLco/VAは正常範囲内になるわけです。ですから肺気量(≒全肺気量)が増えたり減ったりする病態だと、解釈が難しくなってきます。
肺気量はDLco測定時に肺内に存在する空気の量ですから、いっぱいに吸い込んでいればほぼ全肺気量に近くなるはずです。
例えばCOPDの場合、肺気量は増えますから、DLcoの値はその分大きくなります。したがって、DLcoよりもDLco/VAの方が、実際の重症度をより反映します。
逆に肺線維症や間質性肺炎では、肺気量が減りますが、DLcoの低下が肺気量の低下に依存しているところが多く、DLco/VAではあまり拡散能そのものの低下が反映されない、とされています。
術後呼吸機能の変化
上腹部の手術後、肺活量は0日でー60%程度、3日経ってもー40%程度と大きく減少し、7日経っても元の状態には戻らなかったと報告されています。
ALS:排痰に必要な呼吸機能
ALS(筋委縮性側索硬化症)における呼吸機能低下は、痰詰まりなどのイベントに関わり、非常に重要な因子とされています。排痰に必要な呼吸機能として以下のようなものが報告されおり、参考になります。
最大咳嗽時呼気流速(peak cough flow:PCF)
•非侵襲的呼吸補助の導入または気道分泌物の除去には180l/min 以上が必要
•270l/min未満では咳嗽能力の不足から呼吸器合併症の危険が考えられ,胸郭柔軟性の維持目的のリハビリ,機械的,徒手的咳嗽介助を考慮すべきである.
ALSにおけるカフアシスト導入基準
•おおよその目安として,%VC50%以下,または下記に従う
PCF<270l/min
上気道感染などにより,痰の粘調度や量が増した時には,分泌物を喀出するための咳の力としては不十分になる.
PCF < 160l/min
痰の性状に関らず日常的に上気道のクリアランスは不十分となる.
参考:Bach JR,Amytrophic Lateral Sclerosis:prolongation of life by noninvasive respiratory aids.Chest 2002
ALSにおける呼吸機能検査値の応用
NPPVをいつ始めるかという問題も重要な問題です。ガイドラインでは下記のように記されています。
→ %FVC(努力性肺活量)が50%以下
参考:日本神経学会ALS治療ガイドライン
PEG(胃瘻)増設のタイミング
%FVCが50%以下では内視鏡操作により呼吸不全を悪化させる可能性が高く、PEGの増設を諦めなくてはならない事態に遭遇するとされています。
胸部外科術前の呼吸機能検査
以下のものは、様々ある報告の中での一例です。
呼吸機能上の手術適応基準として,肺全摘の場合は1秒量2L以上,肺葉切除の場合は1.5L以上あれば,さらなる検査の必要はないとされています。
術前呼吸機能評価(spirometry)と肺血流シンチグラフィを用いての予測術後肺機能は,術後実測値と良い相関を示したとの報告があり,術後予測1秒量(FEV1.0)≧800ml/m2などの指標が参考値として用いられています。
術後呼吸機能予測式
術前FEV1.0 ×(19-切除区域)/19 × 1/BSA(m2)
統一した見解はないですが,術後予測残存1秒量800 ml,600 ml/m2以上で手術可能と考えられています。
また、1秒量<1000 ml,%VC50%未満ではハイリスク、低肺機能の定義を1秒量<1.2Lとしている論文が散見されます。
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