CPX(心肺運動負荷試験)とは?

循環器

CPXとは?

CPX(cardiopulmonary exercise testing:心肺運動負荷試験)とは、呼気ガス分析装置を使用した運動負荷試験です。これにより、その人の運動耐容能いわゆる体力)が測定できます。

さらにすごいのは、CPXではさまざまな指標があり、その人の運動耐容能が肺・心臓・筋の3つの中のどの要素が影響しているかを考えることができるのです!

CPXでわかること

CPXを語る上で欠かせないもの、ワッサーマンの歯車です!

人間が運動を行うには、大気から酸素を取り込み、筋肉まで届けて、ミトコンドリアでエネルギーを作り出す必要があり、この図はその過程を表したものです。

つまり、運動は 肺・心臓・筋肉 がそれぞれうまく働くことによって成立する”、ということを示すものであり、逆にこの3つの臓器のどこかに異常があると運動耐容能(体力)は低下してまう、ということが言えます。

CPXはこの図の中の、運動時 VO2とVCO2+α(心電図や換気量など) を測定することにより、運動中の肺・心臓・筋肉の様子を手に取るようにわかる、という優れた検査なのです。



☞ 具体的にCPXでわかる代表的な指標は下の3つです。

  • AT(嫌気性代謝閾値)                       
    人それぞれ、有酸素運動ってどれくらいの運動なの?っていうことがわかる指標です。                                                  
  • peakVO2(最大酸素摂取量)
    その人の、最大の運動能力、体力の指標になるものです。具体的にはもうこれ以上漕げない、というほどまで自転車を漕いだときの、酸素の摂取量です。
  • VE/VCO2
    1mlのCO2を体内から排出するのに必要な換気量です。値が小さいほど換気効率が良いと言えます。                                               

CPX結果の利用方法

CPXで得られた結果の代表的な利用方法は、運動処方です!
運動耐容能(体力)は、各個人によって異なり、有酸素運動のレベルも個人ごとに異なるのです。
つまり、その人に合った運動の強度があり、CPXの結果を用いてオリジナルの運動を処方出来るようになります。

基本的な運動処方の仕方はFITTに準じて行い、運動強度はATで処方します。

FIITとは?

FITTとは、運動処方を行うときに押さえておくべきポイントの1つで、下記のそれぞれの頭文字を取った略語です。

F:Freqency(運動の頻度)
I:Intencity(運動の強度) →強度はAT、またはBorg11~13で処方する
T:Type(運動の種類)
T:Time(運動の時間)

運動処方の仕方(例①)
・頻度:週4~5日
・強度:40Watt
・種類:自転車エルゴメーター
・時間:30分

運動処方の仕方(例②)
・頻度:週6日
・負荷:“ややきつい” と感じる速さ
    心拍数が95拍/分となる程度の速さ
・種類:ウォーキング
・時間:30分

運動処方のPOINT
運動の効果は2日に1回、または、ほぼ毎日行うのが効果的と言われています。しかし、人によって健康状態や生活習慣は異なり、実際毎日継続するというのはとても大変なことです。そのため、運動処方の基本を押さえつつ、その人に合った形で処方するようにしましょう。

ATとは?

ATとは ”anaerobic threshold:嫌気性代謝閾値” の略で、有酸素運動から無酸素運動に切り替わる点ということです。

運動強度を徐々に激しくしていくと、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、逆に二酸化炭素の産生が多くなる(血液中の乳酸が上昇し始める)点があります。ATとはこの時のことであり、このときの運動の強さのことでもあります。

ATは嫌気性代謝閾値、無酸素性作業閾値、換気閾値、乳酸閾値などいろいろな表現方法があります。

ATの決定方法

ATの決定方法を下にまとめます。
・V-Slope法にてVO2 – VCO2関係が45°以上に変曲する点
・VO2と比較してVCO2が増加を開始する点
・VE/VO2が増加を開始する点
・ガス交換比が増加を開始する点
・ETO2が増加を開始する点

なぜ上記の5つがATの決定方法なのか、また別の記事でご紹介予定です。


ATレベルでの運動療法の利点を下にまとめます。

1.安全
交感神経活性が亢進しにくいため心筋梗塞、狭心症、不整脈などが発生しにくい運動強度です。

2.疲れにくい
乳酸産生が亢進しない運動強度なので疲労感がなく長時間の運動が行なえます。

3.効果的
もっとも脂肪が燃焼しやすい運動強度です。

CPXの各指標

CPXの各指標に関してまとめておきます。

MET1メッツ≒安静座位時酸素消費量3.5ml/kg/min(40歳70kgの白人男性)
RVCO2をVO2で除した値(1.15以上で充分な負荷と判断)
AT好気的代謝に嫌気的代謝が加わる点(これ以降は酸素不足に陥る
RCPアシドーシスに対して呼吸補正が始まる点(運動の限界に近い)
VO2心ポンプ機能,エネルギー代謝量,運動耐容能などの指標
VCO2好気的代謝でも産生されるが,嫌気的代謝でより多く生じる
peakVO2 
VE 
VE/VO2酸素を取り組むのに必要な換気量(小さいほど効率が良い)
VE/VCO2二酸化炭素を排出するのに必要な換気量(小さいほど効率がよい)
ETO2運動で低下しするがAT以降は上昇に転じる
ETCO2運動で微増するがRCP以降は低下する
VO2/W体重補正
VO2/HR1回心拍出量の指標(負荷後半の低下は虚血や弁疾患の悪化を示唆)
VE vs VCO2 slope換気効率の指標で心不全の重症度を反映(34以上なら予後不良)
minimum VE vs VCO2VE vs. VCO2 slopeと同様,換気効率の指標(目安は34以上なら異常)
ΔVO2/ΔLOAD仕事率に対する酸素摂取量の増加(10未満が異常で年齢や性別の影響は少ない)
PETO2動脈血O2濃度(80~100mmHg)に近似しAT以降で増加する
PETCO2動脈血CO2(35~45mmHg)と近似するが,死腔の増加に伴い低下
peak PETCO2肺血流量≒心拍出量(正常はRCPで45mmHg以上,ETCO2なら6%以上)
Ti吸気に要する時間で肺気腫があれば短縮する
Ttot一回の呼気と吸気に要する時間
TV安静時の正常値は400~600ml程度で,運動開始後に増加する
TV E基本的にVTと同じで,負荷開始後にRRよりも速やかに増加する
VD解剖学的死腔(鼻腔や気管支など)と付加死腔(マスクなど)の総和
VD/VT早くて浅い呼吸は死腔の増大に繋がる(安静の正常値は0.3-0.4)
OUES換気により取り込まれた酸素の割合(正常は1500程度,心不全で低下)
τ on運動開始後に増加する心拍出量の反応性(40秒以上なら延長)
τ off運動後の酸素負債(O2 debt)を反映する(60秒以上なら延長)
MVVMVV-peak VEは呼吸予備能と呼ばれ,低下すれば肺疾患を疑う

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